その人の可能性を開く、と覚悟を決める

 覚悟を決める
 1 危険なこと、不利なこと、困難なことを予想して、それを受けとめる心構えをすること。
 2 仏語。迷いを脱し真理を悟ること。
 3 きたるべきつらい事態を避けられないものとして、あきらめること。観念すること。出典:デジタル大辞泉

 NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀 教えてくれるのはいつも子供たち~少年野球監督 辻 正人」を見た。彼は、中学時代に野球と出会い、自分の生い立ちから子供たちの可能性を開こうと、地元に野球チームを作った。彼が受けた教育と時代背景もあったのだろう。自分の息子たちに後に言われる様に「野球に行くのに緊張感しかなかった。恐怖で支配したら選手のパフォーマンスが落ちる」ような指導を、以前は続けていた。自分自身も、人から自分がどう見られるか、つまり「勝つ事」がすべてと思い込み、ピッチャーの配球から、戦略まですべてを自分が決め、綿密に計算された試合をミス無くこなす事を選手に求めていた。そのためか、強豪と言われるチームにも関わらず、試合に必要な‘9人‘の選手が集まらず、それが自己否定されているようで焦っていた。
 ある試合で、自分の出すサインが敵陣に読まれて失点した事から、勝ちたいという自分の想いだけでサインを出す事を止める。すると、選手たち自身が考え、議論しだし、それが非常に面白く試合を運び出したのだ。その経験が、自分が「なぜ少年野球チームを設立したのか」の原点に戻って考えるきっかけになり、今では転居をしてでも加入したい程のチームとなっている。
 この番組の中で、辻さんが仰っていた様に「好奇心に蓋をしない。ワクワク感を潰さない」と言う事が、私は、一番大事なんじゃないか、と思った。それは子供に限らず、すべての人の生きる原動力になっていると思うのだ。
 その為には、自分で考え、自分で決める。そして失敗もさせ、その上で、どうするか?と言う事まで自分で考え、選択させる。辻さんは、社会に出た時に起業家の社長の様になって欲しい、と思って指導しているそうだ。
 私の成長過程を振り返ると、家族や先生、上司・先輩の言われる事を聞き従い、或いはその人の求める答えを探りに行っていたように思う。それが、正解で正しい事だった。ましてや「私の意見」など問われた事は無かった。
 今までの教育、指導がすべて悪いとは思わない。それが日本の高度成長を、日本人の基礎学力をつけてきた事には一定の役割があったとは思うからだ。しかし、それが為に「自分で成長する」機会も奪われたのではないか。
 
 コロナ禍以前から、日本の労働人口及び人口減少、少子化が課題として大きく扱われ出した。特に中小企業は、採用難の所も多い。新しい人を、若い人を採用し続ける事は、継続企業を前提とすれば必要な事だ。しかし、社内には才能を眠らせたままの人財はいないか。どの人も自分の可能性や本来持っている才能に気づいていない、と私は思っている。新規に人を採用すると同様に、社内に眠る才能を存分に発揮してもらうための施策が今、最も重要だと思う。主体的にメンバーが動くための解決方法が、盛んに取り上げられる事もそれを示している。
 
 自分は何が得意か、どんな才能が眠っているのか、何を発見し磨き上げるべきなのか。これは、それぞれの人の内側をじっくり観察するしかない。子供の頃にワクワクした事、夢中になった事、ずっと継続している事の中に種がある。自分には普通過ぎて見えない種を、周りからのFeedbackで気づいてもらう事もあるだろう。
 発見したその種を開花させるための、チャレンジの機会、失敗を次につなげるための思考方法、再チャレンジの機会。組織やリーダーはその土壌を提供する事が仕事だと思う。その為に、組織として、チームとして可能性を開いたメンバーと共に目指す未来の姿を示し、現状を照らし続け、時に選択肢を提示したり、対話を続ける為の扉を常に開いておく。その人の可能性を信じ、任せる。自分で失敗してこそ、どうすれば乗り越えられるのかを自分自身で考え、知恵も働く。これには、見守る組織やリーダーがこれは息の長い、鍛錬と覚悟の連続だと「決める事」が最も大事だ。ある意味でリーダーが「過去の成功体験」からくる「自分の答え」を示す事は簡単だ。しかし、それを常に続けていると、みなその答えを求めて自分で考える事を止める。結果として、リーダーの能力以上の成果を出す事は絶対にない。主体的に動かないメンバー、つまりその人の可能性に蓋をし、潰してやる気も削いでいるのは、組織であり、リーダーではないのか、と私は思っている。
 
 辻さんは言っている。「自分を制御しないと、仮にその試合は上手くいっても、また以前の「求められない」強い野球に戻ってしまう」。35年間少年野球チームを率いて、少年野球大会で世界制覇をした彼でさえ、子供たちが、「自分達でチームを作り、自分達で試合を運び、自分達で勝利していく」ために、監督としての関り方、在り方に覚悟を決め、「自分のやり方」を今も制御しているのだ。
 「1人でも多く達成感や満足感で満たされた働く人が、その周りの人も満たしていく社会になる様に貢献する」
私の掲げたその未来像に向けて、その人を信じ、才能を発見し、磨き続け、掲げた未来へたどり着けるよう、目の前のこの人にとことん向き合う、と私も覚悟を決める。
 
 あなたが「覚悟を決めた」事は何ですか?

2024/3/27