あなたが奪っているもの

 「メンバーが主体的に動かないんですよ。意見も全く出てこないし、やる気あるんでしょうかね?」イライラと諦めの混ざったこの言葉は、リーダーからよく聞く言葉だ。
 リーダーご自身も One on Oneや会議の場で、各メンバーの方を励まし、発破を掛けたり(注1)しながら、プロジェクトやチームの目標をゴールに導くために必死だと言う事は十分に伝わってくる。リーダー自身もその上司から「このプロジェクトはどうなっているんだ!」「君の進め方が悪いんじゃないか?」などと進捗の確認という名の、批判や悪くすると恫喝にも似た叱責で日々憔悴しているのだろう。
 
 思い出している。私も自分が年初に掲げた目標に遥か及ばず、酷い時には何を「今年の目標」に掲げたかすら頭の片隅にも無かった時を。その一方で、その年の目標の数値はいざ知らず、自分の無知さに絶望を抱えながらも、本当にワクワク、ドキドキしながら仕事に没頭していたあの瞬間の事は、今でも鮮明に覚えている。

 何が違うのか?私にとって、「自分が何をやるのか?どうやるのか?」を「自分で決められる」「任せてもらえる」事は、その責任の重さに萎えると言うよりも、ワクワク・ドキドキして「仕事」という枠を超えるものだ。自分で考え、それを仲間に説明し、みんなで課題を解決するために汗をかく。その一つ一つが今でもキラキラした確かな経験となり、今の自分を支えていることに気がつく。それが本当に難しく、なかなか闇の中に光が見出せなかった苦しい仕事だったにも関わらず、思い出すのはその瞬間だったりするのだ。
 
 ぜひ、思い出してほしい。リーダーである自分がどんな事にワクワクし、達成感を感じたのはどんな瞬間だったかを。その時には何が有り、何が無かったのか。それは各々の時代背景や業務内容、個人の好み等でそれぞれ違うだろう。
 
 【新人だったあの時の私が持っていたもの】
  リーダーが新人の私を信じてくれていた。
  私に裁量を与えてくれた。
  私に失敗と達成の機会をくれた。

 あの仕事で私は仕事でワクワクする事を経験し、失敗が次への知恵を授けてくれた。そうやって色々な事を乗り越えられる、と自分を信じる勇気を与えられたと思うのだ。
 あなたの上司が、もしかするとあなたを萎えさせ、チャレンジする機会すら与えられていないかもしれない。でも、あなたこそが、メンバーが自分自身で歩き出せる力を発揮できる様にできるリーダーなのだ。
 どうだろう?あなたが今、メンバーから奪っているものは?

 注1:発破を掛ける・・・強い言葉で励ましたり、扇動する。気合を入れる(広辞苑より)

2023/5/12