笑顔に満たされる
母の誕生日をレストランで祝った。
取り立てて何かをしたわけではなく、最後のデザートの皿を誕生日様に少しデコレーションをしてもらった。ただ、お店側の演出として、他のお客様もいるレストランの照明を若干落とし、オーナーの奥様が線香花火の乗ったデザートを母の目の前に置く際に、「お誕生日おめでとうございます」と静かに本当に優しい笑顔で言った。想いのこもった笑顔を見た母はすっかり喜んでいた。他のお客様も予告のない出来事にも関わらず、笑顔で一緒に拍手をしてくれた事で、私達は心が温まった。
このレストランのオーナー夫婦は、たった二人で店を切り盛りしているからか、私達お客との距離感もつかず離れずで、それが心地いい。お客側も二人が忙しくしている事がわかっているから、オーダー以外に余計な事は言わないし、オーダーする時ですら、隣席の人がオーダーをするのを順番に待ち、「終わってからでいいですよ」とお互いに気遣っている空気があり、それが更にこの空間を心地いいものにしているのだろう。
ゆっくりデザートのケーキを味わい、すべてを終えてレストランを後にする際も、オーナーの奥様は出口まで私達を見送りながら、更に「お誕生日おめでとうございました」と重ねて祝ってくれたのだった。母と私は感激で一杯のまま、レストランを出た。
人の心を満たすには、多くの言葉はいらないのかもしれない。
時に、言葉よりもその人の存在が人を癒すのかもしれない。その人の人となり、感性、接し方、佇まい、在り様等、私達がその人から感じとるもので癒される事がある。
私は、誰もが自分の足で立ち、顔を上げ、前を向けるように成れば、自分で自分を満たしていける力を持っていると信じている。人は自分自身が満たされてこそ、本当の意味で隣の人に声を掛け、手を差し伸べられるのではないかと私は思っている。その支援をしていきたい。存在で安心感を与えられるような人に成りたい。
オーナーの奥さんの佇まいから、そんな事を思った母の誕生日でした。

