互いに影響しあう背景に想いを致す
能登の被災地で、動物診療の活動をしている番組を見た。
その番組は一向に復興が始まらない、まだ雪が残る3月に取材が行われていた。
朝5時に出発して、3時間半かけて珠洲市に入る。道路状況も大変悪く、珠洲市にあるたった1件の動物病院も被災していたので、その中で診察が出来るバスに、機材や薬剤も積み込んで現地に向かう。場所は避難場所となっている小学校の校庭。掲示板に「診療日時 〇月〇日✕✕時間~」と表示されている。
「いやぁ~先生!待ってましたぁ。」と犬を連れた人が現れる。この方は、震災前からこの獣医の先生にご自身の犬の診察を受けていて、元々お腹に湿疹が出来ていたが、地震によるストレスで更に悪化したとのこと。犬の顔も心持ち不安げに見えるものの、優しく穏やかな先生に頭や体を撫でられた犬は、吠える事も無い。
また、別の方がネコを連れてくる。このネコは片目が結膜炎になっているとのこと。このネコも、小さな音にも敏感になってしまい、ストレスをためているらしい。どの動物たちも、声にはならない代わりに震災によるストレスを体や、顔の表情に現わしている。
動物は好きだが、世話を続ける自信がなく、子供の頃以来、飼育をしたことが無い。また、我が家で飼っていた動物たちは、家族の様に家の中で一緒に過ごしたり、ましてや一緒に寝た事もない。私の家の動物たちは、家の外のかごや檻の中にいて、完全に人間が飼っているペットだった。
しかし、現在では多くの動物たちは、多くの時間を共有する家族になっている。そのため、この動物の診療所に来ていた人も、家族である動物が居るとの理由で、避難場所には行かず壊れた家の中で過ごしていると言っていた。地震で揺れる日常や、大きく傾いた家の中での不慣れな生活に人間も多くのストレスを抱えて過ごしている。
診察にあたっている先生は、動物の診察を終えると一様に飼い主にも声を掛けていた。私は、話のついでに日常会話をしているものと思っていた。しかし、先生は言った。「動物は人を見ています。その飼い主が不安定な精神状態だと、動物たちは自分たちが何か悪い事をしたのかと思い、負のスパイラルにはまっていってしまいます。だから、飼い主にも声を掛け、様子を伺い、一緒にケアをする必要があるのです。」
人間の子供は大人の表情をよく見ていると言われる。(参考:「幼児期における表情理解と表情表出」保育学研究第55巻第2号 (jst.go.jp) 何を言っているのかは判らなくても、話しているその人の表情を見て(怒っている、喜んでいる、悲しんでいる)等と感情を読み取る能力が幼児期より発達するのだそうだ。同じように、家族の一員として迎えられた動物達も、日々人間の喜怒哀楽を見聞きし、密接な関係を築くため、もっと感度高く認識し、大きく影響を受けているのかもしれない。その動物たちの不安げな様子にこちらも、心が揺れ動いてしまう。
ペットとしての動物自身を診るだけでなく、その背景にある飼い主の状態を含めた状況まで一緒に診る。先生の暖かい声と、穏やかに掛ける声を聞くだけで、本当に心が癒されるような気分になった。
その一つの事象、目の前の人の言葉のみならず、影響しあう背景にまで想いを致す事の重要性を再認識した思いでした。
その物語の背景にまで想いを致して、あなたの見え方が変わった事がありますか?

