その人自身の主体性と創造性を最大限に花開かせる」ために

おおや幼稚園 園長 大矢路子様

ご経歴

 卒業後、ご主人の実家が経営する幼稚園に幼稚園教諭として就職。その後、約30年前に園長に就任し現在に至る。昨年までに園の建て替え、園庭を整備し2023年5月、悲願だった個人立幼稚園の設置許可を取得した。個人の主体性・創造性を更に伸ばすために、特にその人の持つ特性・強みに応じた個別の向き合い方を実践し、園児を取り巻く教育環境の整備に効果を上げている。

  • Q.1.教育環境を更に整備しようと考えられたのは、いつ位からでしたでしょうか?今回の設置許可が下りた事で、今後どのような事を考えられていらっしゃるのでしょうか?
    A.大矢様: 園児の教育を行うための場所として環境を整えよう、という思いは園長就任以来、常にありました。ここは新宿区高田馬場駅に近い住宅地の中にあります。園舎や園庭を拡大するには、場所的な制約があり、なかなか実現しませんでした。しかし、旧園舎の近くに土地を確保できる事がわかり、個人立幼稚園として設置許可をされるために必要な条件を満たせるかもしれない、と関係先を含め早速奔走し始めました。ただ、50年以上実現できずにいた事です。それほど簡単にはいきませんでした。園舎の新築及び園庭確保の資金の準備に始まり、区役所との調整、コンサルティング等、多くの人々のお力添えを頂きました。審査会で認可を得る為には、家族の協力も必要で、私自身が動く事で前進するならば、と何でもしました。
     その結果、2023年5月、ようやく悲願だった認可を得る事が出来た時にはホットする気持ちと同時に、これが始まりだと身の引き締まる思いでした。今後は、さらに学校法人化を見据えているためです。
     今回認可を得た事で、今まで以上に子供の主体性や創造性を伸ばす為に、色々なチャレンジをさせてあげる事が可能になると思います。先生達のアイデアもどんどん実施できるチャンスが広がったと思っています。
  • Q.2.園の運営・経営上で大切にされている事は、どんなことでしょうか?
    A.大矢様: 私は、私と先生達、先生間の関係性創りに悩んでいた時期が有ります。その時期に、研修会で「コーチング」というものを知り、関係性創りには「これだ!」と思い、すぐに名古屋まで通って勉強を始めました。今までも園長として日々先生達には教育的な指導をしてきました。しかし、コーチングでは「傾聴」というスキルを使って、相手の話を最後までしっかりと聴く事が大切になります。また、人はそれぞれ個性や特質があって、その特質を強みとして見出し、強化する事で人がイキイキとしていく事を知りました。
     そこで、先生、職員と接する際に自分が勉強したことをすぐに実践する事にしました。それは、1on1という一人ひとりの先生達と、じっくり向き合って話しをする時間を取る事です。当然、最初は進んで自分の話をしてくれた訳ではありません。その時に痛感した事は関係性を作るには時間がかかる、と言う事でした。今までも、そうしてきたはずでしたが、深い心の内を知っていたわけではありませんでした。
     継続的に時間をとって話をするようにしたところ、先生達が自分達の胸の内にしまっていたことや、不安に思う事、やりたいと思う事を次第に話してくれるようになってきました。
     運営上最も大切にしている事は、どんな時も先生方が話したい時には、「いつでも話を聴くよ」と言う声掛けをし、それを態度で示す事だと思っています。その事で、先生達、職員も安心して働けているのではないでしょうか。果敢にチャレンジできるのは、最後の砦として園長が居てくれる、そしてどんな時も相談に乗ってくれる、という安心感ではないかと私は信じています。
     また、この園が皆様に選ばれ、教育を継続的に受けていただけるために最も必要な物は、新しい園舎・園庭、教育プログラムといったハードだけではないと思っています。それらは他園でも既にやられており、私は園長である私や先生方の人間力=主体性が最も重要であると考え、人材育成に力を入れています。
  • Q.3.コーチングを学ばれ、先生方等の関係性を作り上げてこられた今、人間関係を作り、維持する上で最も大切にされている事は、どんな事でしょうか?
    A.大矢様 いくら先生方に「主体的に動いて」と指導したところで、先生達自身が「主体的に動けなければ」出来ません。その場合の私の関わり方は決して指導ではなく、あくまでもサポートであると考え、実践しています。しかし、それは使い分けで、主体的に動けていない場合は、きちんとフォローするような声掛けや、進捗を管理する事もします。場合によっては提案もしますが、その場合でも先生達の表情から、やる気を感じられない場合には、こちらの提案を撤回して、「じゃぁ、どうする?」と相手の考えを否定せず、必ず最後までしっかり聴くようにしています。以前、提案をした時に「それは園長命令ですから、やった方がいいですよね?」と言われたので、「やったほうがいいですよね?というなら、やらない方がいい。あなた達がやりたい、やった方がいいと思わないならやらない方がいい」とはっきり伝えた事もあります。こちらも想いをきちんと伝える事で、双方の意見を出し合って本音で話し合ったと言う事が、双方が納得し物事が進む事に繋がったと思います。
    また、本人のこうやりたい、という主体性を尊重する上で、声掛けについてもその人の持つ資質・強みに着目して、個別に変えています。例えば、リーダーシップを強く発揮できる方には、「この場合には、どうするか考えてくれる?」等任せる声掛けとか、慎重に計画を立ててから行動をする方には、「あなたの事だから、他に考えているわよね?」といった相手の意見を引き出すような声掛けを心掛けています。
  • Q.4.これから更に強化していきたい事、やりたい事はどんなことでしょうか?
    A.大矢様 自分自身の最も強みである資質であり、大切にしている事は、どんなお相手(園児・ご父兄、先生方、関係先の方々等)であっても、そのお相手が発信している事を撥ねつけずにキャッチし、対応しよう・応えようときちんと向き合う事です。そのキャッチした事について、自分は何が提供できるだろうかと、今後も常に考えていきます。それをキャッチした上で、当園では、「主体性や創造性を伸ばす事を目的」として、それぞれの行事や進級の各段階で実施している事を、今後は継続的に発信していきたいと思っています。 コーチングを取り入れた事で、私自身の先生達との向き合い方が大きく変わりました。そうすると、先生達が本当に自由に、主体的にイキイキと動かれ、先生発の多くのアイデアが実施される様になりました。先生達がイキイキとしている事で、結果、園児たちの可能性が目を見張るばかりに大きく花開く様になったのは、本当に驚きであり大きな喜びです。人の可能性が無限大であると信じられる様になりました。
     今後は、子供たちの大きな可能性を更に発展させるべく、学校法人化をする事によって、より良い環境創りを目指していきたいと考えています。

One Viewpoint  
 
大矢さんの言動や態度には常に覚悟が感じられます。主体性・創造性を発揮してもらうために、先生がやりたいと思われることは全面的に支援します。そのアイデアに懸念がある時には、そのポイントを伝えた上で、先生方がどう解決されるかまで信じて任せます。それは、仮に問題が発生した場合には、最後の砦としてその課題に自ら取組み、必ず責任は自分が取るという覚悟でもあります。また、改善したい事が有るのであれば、まずは自分から変わる。その潔さと深く強い探求心が大矢さんの温かい笑顔の奥に感じられました。

2023/5/30