誰もが「本当にしたい事」で、しなやかに強く生きられるように

ライフデザインコーチ
砂川 めぐみ様

ご経歴

 卒業後、法律事務所に秘書として入所し3年勤務。結婚・転職を機に退職し、大手音楽教室で教えると共に自宅でも大人向けにピアノを教え始める。その後、以前より関心を持っていたコーチングの勉強を始め、資格を取得し、働く女性を対象にコーチ業の仕事も開始する。自宅でのピアノ教室が出来なくなったことを機に、賃貸ビルで1フロアを借りてピアノ教室を始め、現在もそのピアノ教室を運営しながら、1on1で対話を重ねてありたい姿を実現するコーチングセッションをはじめ、教室を運営する人向け講座、Pointsof You®︎のカードを使った自己理解、他者理解また、相互理解に繋がるワークショップを行なっている。コーチングセッション、講座、ワークショップを通してコミュニケーションの方法等を伝え、誰もが自分のやりたい事を見つけ、しなやかに強く生きられる支援を続けている。
  *Pointsof You®︎;2006年にイスラエルで開発された写真や言葉を使ったコミュニケーションツール

  • Q.1.大学までピアノを専攻されながら、法律事務所の秘書として就職をされ、再度音楽の道に戻られました。今に至るまで、どんな事を考えながら、どんな経緯をたどってこられたのでしょうか?
    A.砂川様:大学までピアノを続けてきたものの、一旦外の世界に出てみようと思い法律事務所に秘書として入所しました。しかし、法学部出身でもなく用語も判らず非常に苦労をしましたね。仕事自体は良かったものの、自分が本当にこれをずっとやりたいのか?という思いを抱えて悶々としていました。更に、事務所の先輩が辞める事がきっかけとなり、自分がその方の仕事引き受けてしまってから辞める事は、かえって無責任だと思い、退職の意志を固め、結婚もした事で、次に進む事にしました。
     その時には、今までやってきた音楽の世界に戻ろうと思い、音楽教室の採用試験を受け就職しました。しかし、その教室の産休制度では、出産後も続ける事は無理だと考え3年位勤めて退職しました。転職と同時期に友人からの紹介で、看護学校で音楽教科を講義することにもなりました。こちらは、コロナ禍を経て、授業時間数は減少したものの、25年経過した今も続けています。
     出産後は、家族の誰かに育児をサポートしてもらいながら、看護学校の授業と自宅でやっていた大人向けのピアノ教室を細々と続けていた、と言う感じでした。外で働こうと面接に行っても、子どもが熱を出し途中で辞めざるをえない、合格しても子どもを預けられない等が重なり、どうしたら自立できるだろうかと10年間位はずっともがき続けていましたね。
     
     その年月を経て、自分の子どもも成長してきたので、子どもレッスンを再開しようと考えました。ちょうどその頃、以前から所属していた全日本ピアノ指導者協会のサイトでBlogを掲載してもらえる事になり、そこに自分の教室を紹介してもらおうと、2010年からは、Blogも始めました。そのブログを書いて4か月経過した頃に、雑貨マルシェのイベントスタッフとして読み聞かせをした記事を掲載した所、「雑貨や絵本が好きな先生に我が子にピアノを教えてもらいたい」と体験レッスンの問い合わせがあって入会されました。その頃を機に生徒数が伸びていきましたね。けれども、2015年6月に突然、自宅マンションでのピアノ教室が禁止となってしまった事から、急遽教室として使える部屋を探しました。運よく現在の場所を借り受けられたことから7月に再開する事が出来、今年移転8周年を迎えるに至っています。
     
     コーチングは妊娠した2000年にネット上で知りました。看護学校や大人のピアノレッスンで教える立場にあったので、大人に教えるにはどうしたらいいだろうか、自分より上手な人が習いに来た時に、「教えるのではなく相手から’引き出す’」というコーチングなら何ができるんだろう、どういう事だろう、私が習ってきた事以上に何か出来る事もあるのかもしれない、と興味関心が湧いていました。そのもがき続けていた10年間を経て子どもレッスンも再開し始めた頃、ピアノ講師でありコーチでもある方の本を読み、その方々のセミナーに参加したり、コーチングセッションを受けるようになりました。そして、コーチ養成機関のコーチエィで学びと実践を重ねて、2014年にコーチの資格をとり、2015年からはコーチとしての活動も始めました。
     初期のコーチングの活動は、個人セッション以外には、ワークショップスタイルのセミナーを週末によくしていました。教室を持つ先生にご依頼をいただき、その教室の保護者の方を交えて、コミュニケーションスタイルや学習スタイルの話をお伝えし、ご自身を知る時間、相互に普段の姿をみてもらうという様な事を主にやってきました。去年からは、U理論トレーニングで知り合った方とのご縁で、徳島大学の教養教科「コミュニケーション入門」の授業の一部を担当させてもらうことになり、Points of Youのカードを使った授業をしています。今年はついに対面で授業を行う事が出来、学生の反応に直接触れられて嬉しかったです。
  • Q.2.2011年に開業され、10年以上ピアノ教室を経営されてきた中で、最も大切にされている事はどんなことでしょうか?
    A.砂川様:バランスですかね。自分は事業としてきちんと継続していける様に経営していきたいと考えているので、収入の面を含めて自分はこうしたい、という想いがあります。そういう想いがある事で頑張れるんですよね。でも、それはあくまでも私の希望で、それだけでは誰も来ないわけです。ですから、来てくださるその人の為に私は何が出来るだろうか、その人たちは何をして欲しいのかという、自分の希望とその方々の希望のバランスを取る、と言う事が経営する上で最も大事にしている事ですね。
     でも、最初は来てくださる方に寄り添おう、という思いが強くて、例えばピアノレッスンであれば欠席の振替はいつでもOKで無料でもいい、となってしまっていたこともある訳です。ただ、それでは教室の生徒数も増えてきて、看護学校やコーチングの仕事がある中で、皆さんに対して「誠実に、できるだけ平等に対応しよう」と思っているのであれば考え直さなければなりませんでした。ですから今はその辺についての規約をつくってお渡しし、自分の想いと来て下さる方の想いのバランスを取れるようにしています。その比重はその時々で少しずつ変わりながらも、バランスを取る事を意識して経営していこうと思っています。
     2020年以降コロナ禍になって、すべてが止まっときに「学びを止めない」と言う事が、生徒たち(大人や子ども)に対して守ってあげられる事だと思いました。この時も相手である保護者の方、生徒たちにとってのメリットは何なのかと考え、今までと同じ時間に同じピアノの音を届ける事を絶対に止めない、と続けていました。後々それを感謝された事は、有難かったですね。
     
  • Q.3.日々、様々な年齢の方々と向き合われている中で、最も大切にされている事はどんな事でしょうか?
    A.砂川様:私が常々、人と向き合う時に一番大切にしている事は、その人を「こういう人だ」と決めつけない、と言う事です。自分がその人を知っている、と思っていても、その人が必ず持っている可能性を含めて、私には見えていない部分が必ずある、その人自身にも見えていない部分があると思っています。その見えない部分の「ヨハク」を大切にしています。 
     この思いに至った理由は、私自身が幼い頃から、人に「あなたはこんな人だよね」と決めつけられた居心地の悪さを感じていたからです。具体的には、例えば「あなたって完璧な人だよね」と他人が良かれと思って褒めてくださったとします。私自身は「丁寧にしよう」という意識はありますが、物事は大雑把にでも「行動すること」を大事にしているので「完璧である」という意識はありません。それを伝えても取り合ってはもらえないですし、その人は褒めているつもりでも、いわば勝手に私を「完璧な人だ」と決めつけておられる。それにも関わらず、私が完璧ではない行動をした時に、その人が「勝手に決めつけた完璧な私」とのギャップに落胆し、「何で出来ないの?」と言われ、私自身が苦しみました。その経験があるからこそ、私は、人と向き合う時には「こういう人だ」と決めつけず、「私の知らない部分がまだまだ広がっているかもしれない」という想い、人にある「ヨハク」を大切にしています。
     
  • Q.4.これからやりたい事、伝えていきたい事はどんなことでしょうか?
    A.砂川様:未来のオトナである子どもたちに、学びと生き方をつなぐコミュニケーションを街の教室から届けることです。お稽古事として技術を伝えるだけでなく感性や人との関わり方を学ぶ場を創り出し、未来のオトナの成長の可能性を私自身が育んでいくこともですが、こういった人間力を育むことに力を注ぐ先生方を応援していきたいのです。指導する中で生徒である子ども、保護者である大人とのコミュニケーションについてのサポート、先生自身の仕事とプライベートを含めた生き方のサポートを、対話とワークを通して寄り添っていきたいと考えています。
     
     教室運営をされている先生方を主に考えて行なっていますが、最近は教員の方ともご縁があり「コーチングを学ぶ」を提供することにも着手するようになりましたので、「対話することの楽しさ」も伝えていけたらと思っています。 
     教室運営をされている方に向けては、「慕われ講師力の磨き方」というプログラムを提供しています。ここでは、生徒や保護者の方に、こういう風に人と関わっていけばいいんだ、生きていったらいいのだと尊敬し、それに倣おうと慕ってもらえる人になるための、コミュニケーションのヒントをコーチングスキルを基本にお伝えしています。この「慕われ講師力の磨き方」というプログラムは当初、1on1形式で想定していました。しかし、有難い事に複数で参加したいという要望をいただき、ピアノ教室の先生のみならず、英語教室の先生も参加された事から、色々なその教室ならではのあるある等をお聞きして、今後も更にブラッシュアップしてお届けしていきたいなと考えています。 
     
     今はこうして教育に携わる方の応援をしたいと心に決めていますが、そもそもコーチとなった当初は、「コーチングはどんな人とでも話が出来るからこそ、どんな方でも前に進めるように支援したい」という思いがありました。周囲からは「ピアノの先生のためにコーチングをしたらいいじゃないか」と言われることが多かった時は、「それはどこか違う!」とずっと思っていました。けれども、私が新米コーチであった時から長くセッションを受けていたクライアントが急逝するという衝撃的な事がありました。その方は偶然にも教室運営されていた方。私もいつ亡くなるか判らないとしたら「今、何が出来るだろうか」ととても考えました。その中で、私自身が今まで長くやってきた事が財産だとしたら、教室を経営する中で自分自身も悩んだ、コミュニケーションの方法等を、教育関係の教室を立ち上げた方向けに、コーチングスキル等を使って支援しよう、先生方自身の働き方、生き方のお手伝いをしようと決めたのです。
     
     コーチングスキルやコーチングマインドを得た今は、音楽を担当する看護学校の授業でも「今、この時間をあなたはどの様に使いたいか?」ということを大切な軸にしながら伝えています。コーチングを学んだことで、学生たちとの授業でのコミュニケーションの取り方の軸が出来たように思います。 
     ピアノの個人レッスンの際にも、子どもたちが自分の頭で考え、選んで、「本当はどうしたいか」を自分で考え、選択し、言葉にできるように関わっています。例えば、子どもたちに「何が弾きたい?」と聞いても「どれでも」とか「何でも」という子どもが多くいます。最近の子どもたちは日々、多くの習い事の中で自分で考えて、自分で選ぶと言う事が出来なくなっています。「本当はどうしたいの?」ということさえ考えたことがない、考えられない、答えがない、話したくない等が多く見受けられる様になっています。だからこそ、自分は何を感じて、どうしたいのかを言葉にする練習として、子ども達と話す時間も大切にしています。
     どの場面でも「本当はどうしたい?」と問いかけあったり、聴きあえる世界になって欲しいと思いながら関わっています。失敗しても、間違えてもいい。そこから自分で立ち上がれるしなやかさと強さを身に付けて、それぞれが笑顔で生きていって欲しい、私もそのように生きたいと願っています。
     

One Viewpoint
 砂川さんの強い思いが溢れるように、言葉が溢れるインタビューでした。負けん気の強さからピアノの道を選んだという思いから、一旦は外に出て再度音楽の世界に戻ってはみたものの、もがき続ける日々。その中で、クライアントさんが急逝するという出来事を前に、自分が今出来る事は何?自分が本当にしたい事は何?と常にご自身に問いかけ続けている砂川さんだからこそ、目の前にいる人が「本当にしたい事」に向き合えるように、ご自身の経験も踏まえ、優しく背中を押しながら寄り添っている姿に、私自身も「本当にしたい事」を問われたようでした。

2023/8/18