人生は「やりたい事」探し、誰もが自ら考えて動けるように

株式会社フジイ金型
代表取締役社長
藤井 寛達様 

ご経歴

 大学院卒業後、旭化成株式会社に入社し、産業機械の研究開発に従事し11年在籍。自ら開発した装置など海外展示会等で解説し、国内外のお客様への対応、導入、アフターフォローなどを行う。
 2010年、株式会社フジイ金型に入社。2012年、代表取締役社長に就任。社長就任以来、会社は右肩上がりの成長を続け、今期社長就任12期目に入り新たな展開を模索中。

  • Q.1.株式会社フジイ金型様の2代目社長を引き継がれるまでには、どの様な経緯を辿ってこられたのでしょうか?
    A.藤井様:私は4人兄弟の長男です。子供の頃から父親が町工場の社長であることの認識はあり、継ぐという選択肢はある、立場である、と理解をしてはいました。しかし、言われたままの既定で行くのは面白くない、そのほかにも立身出世の道はないかという野心を持って、中学・高校時代を過ごしました。そういう想いもあり、大学は地元を離れました。
     
     大学院を卒業し㈱フジイ金型への入社も考えましたが、その時点では大企業の出世レースで出世していくのも面白いかな、と思い旭化成㈱に入社し、11年間働きました。30歳で結婚した時には戻ろうという強い想いがありました。理由の1つは、リーマンショックが起きて会社が傾いた時に、普段は見せなかった弱気の父親の姿を見たことで、(手伝わなくては)と思った事。理由の2つ目は、旭化成㈱で当時係長だった自分が、その後の選考試験や面接等で評価されて、順当にパスしていけば、課長、部長というあの席が与えられていく、という人生のラインが見えた瞬間に(面白くないな)と思ってしまった事がありました。その時に、大企業の小さな歯車の人生と、中小企業の大きな歯車のどっちが面白いかな、と考えて㈱フジイ金型に入社をする意思で愛知県に戻りました。2010年1月35歳で入社をし、2年半位後に社長に就任しました。
     
     入社時から会社のNo.2のポジションで、人事・給与面の決定権を与えられたものの、旭化成㈱では研究開発職だったために、全く経験がなく判りませんでした。まずは知識として体系的に学ぶ必要があると思い、ビジネススクールを探して、グロービス経営大学院に入り経営について勉強をしました。
     社長就任時は、リーマンショックにより会社の業績はどん底でした。でも、どん底だからこそ上がるしかないと思い、タイミング的には良かったなと思っています。お陰様でコロナショック前までは、ずっと業績は右肩上がりでした。コロナショックで業績は横ばい状態になったので、早くまた成長軌道に乗せたいと、今は少し焦りが有ります。
     
  • Q.2.社長となって12期目との事ですが、会社を運営・経営する上で心掛けている事、大切にされている事は、どんなことでしょうか?
    A.藤井様:以前は各部門・各ラインで専任制をとってスペシャリストを育てていました。それは熟練したスペシャリストが育つ反面、縄張り意識や縦割り意識も強くなっていきます。そこで、コロナショックで、仕事量が減少した時に、このピンチはチャンスだ!と思い働き方改革をしました。
     
     会社は月曜日から土曜日の週6日稼働、その中で順番に出勤をすることで社員は週4日~5日出勤し、年間休日は137日です。以前の分業化を崩す事を意図して、縦割りだった仕事のやり方を横串にして、互いに他者が休んでいる時は、みんなが自分の仕事の前後を自分でやる事にしたのです。この様に多能工化することで、前後の仕事を理解し、仕事の仕方を工夫するために、コミュニケーションが増えたりしました。また、この働き方で、能力の高い方は、既にどんどん仕事を覚え、成長し、評価されています。
     
     父は創業者であり、圧倒的トップダウンでワンマンに仕事を進めてきました。その時代の社員は言われた事の質と量をこなす事で、成長し評価されてきました。しかし、それは今の時代には合わないと思っています。社員は自ら学び対応していける人でなければ、会社も成長できず出遅れてしまいます。人財も自分から積極的に学び、成長できる優秀な人を採用しながら、一定数の出入りもあるような循環は必要だと考えています。そうでなければ、組織も滞留してしまいますからね。
     コロナショックからこの取り組みを初めてみて、今、仕事量が戻りつつあります。この働き方改革の成果を今は見ている所です。ただ、この働き方が進むとまた無駄や滞留が出てくると思うので、その時にはまた分業制へと揺り戻しをして、組織が滞留をしないように、と考えています。
     
     経営する中で大切にしている事は、利益を出す事は当然です。優秀な人の採用をする為には、お金をかける事も必要だからです。その他に1つ目は、社員も含めステークスホルダーには、「笑顔でいられる」様にしたいと思っています。それは、人によって「お金」かもしれませんし、「人間関係」かもしれません。その為に環境を整備する事だと思います。
     二つ目は、「誠実であること」、これが最後には勝つと思っています。この1つとして、会社の経営状況については、社員にほとんど公開しています。父の時代から、そうしています。また、自分自身を100%、すべて公開とはいかなくとも、自分自身が透明性をもって、胸をはって行動をする事で、社員もその様に行動してくれるのではないか、と信じています。
     三つ目は、私自身が株主であるために「長期的な目線でどっしりと考えて経営をすること」を心掛けています。トップがそういう態度でいる事は、社員に安心してもらえるのではないかと思います。心理的な安全を確保してあげたい、そう思うのは色々な書籍からの知識でしょうかね(笑)
     
     リーマンショックのどん底にあった時は、「以前の売上高を目指そう!」という様に数字を掲げていました。数字には強力な牽引力があるからです。しかし、その後、数字を掲げても達成できない事や、中・長期の目標を掲げても、5年も経つと社会情勢や経営環境がすっかり変わってしまっている状況になってきました。その状況で数字を掲げると、その数字に牽引力があるために間違った方向に進んでしまう事もあり、中・長期的な数字を掲げる事をやめました。
     製造業は、「品質、コスト、納期」の3つの競争になります。その中で、当社は「超短納期で金型を作る」を目指す事にしました。今は商品開発のスピードが上がっています。お客様には、早く金型を調達して開発スピードを上げたいという要望があります。その為に、当社は何が、どんな道具が、どんな人財が必要かを社員に考えてもらうために、私からは数字ではなく「力のある言霊を持った言葉」を投げかけるようにしています。
     
  • Q.3.社員、家族など取り巻く人々と向き合う際に、大切にされている事、伝えたい事はどんな事でしょうか?
    A.藤井様:立場上、自分には思っている以上にPower/威圧感がある、と感じています。自分は冗談だと思って言った事も、本気に受け取られて間違った方向に行かない様に、会議の場面でも喋りすぎないように気をつけています。出来るだけ、その人の本心や、やりたいと思っている事、正しいと思っている事等について、質問をしたりして聴く側に回る様に心掛けています。
     今の時代は、個人事業主の様に自分で考え、決断するような働きが出来る人でなければ対応できないと思っています。社員自身が納得して、自分の想いが乗っった事ならやる気も出るし、パフォーマンスも上がる。自分は社員のパフォーマンスを上げる事をしていく必要があります。その為には、褒める時には大勢の前で、叱る時には1対1で、を心掛けて、社内にも徹底していきたいと思っています。悪い所、注意すべき所は誰にでも簡単に見つける事が出来ますが、「褒める事」というのは、見つける努力が必要で、その人の「良い点」に目が行くようになると、喜びを感じるし、人生も楽しくなるんじゃないかな。
     
     ワークライフバランスという言葉がありますが、私はワークライフミックスだと思っています。その意味は仕事とプライベートは密接に関係していて、仕事が充実しているからプライベートも充実する、と思っているからです。
     仕事の話を家庭に持ち込み、家族と食事をする際にも「今日、会社でこんな事が上手くいかなかったんだけれど、どう思う?」と中学生の息子にも判るような話し方をして、悩みを伝えたり意見を聞いたりもします。息子はこの家業の3代目という立場にある事も理解しており、継承をして欲しいとは思っていますが、「将来家業を継げる権利、選べる権利があるよ」という伝え方をしています。

     自分が社長として仕事をしてみて、自分に決定権があること。自分の努力や能力が明確に表現でき、業績という形で評価されるこの仕事が面白い、と思っていること。中小企業の社長、という地位は誰もが手に出来るカードでも無いし、苦労も多いけれど、出来る事も多くて楽しい、と言う事も伝えたいですね。
  • Q.4.今後ご自身がやりたい事はどんなことでしょうか?
    A.藤井様:現段階で、まだ明確には見つかっていませんね。今は、それを探している所です。その為に、様々な情報を収集したり、実践してる人に会って話を聴いたりしている所ですね。
     
     今年、私は50歳になります。50歳はまだ体力もあり、もう一度ジャンプするようなチャレンジをしたいなと思っているんです。やはりイメージしているのはビジネスですね。ビジネスは自分のアイデアを具現化して、ユーザーに認められてキャッシュというリターンが入ってくる、といった判りやすいものです。今後は、今のビジネスを拡大するのか、M&Aの様な事なのか、そう言った事で影響を与える人を増やしていきたいと考えています。
     コロナショックも落ち着いてきたので、海外に出て行って知見を増やしたいというのもありますね。2011年に中国工場を立ち上げた時に、現地に入り込んでやった事も、その地域の文化や人の考え方に触れられて面白かったからです。それらは、人間の幅を広げる事にも繋がるのではと考えています。

     プライベートでは、私はテニスが好きで色々なトーナメントに出場したりしていますが、新しい人との出会いや試合のチームメートと感動を共有することも、人生にとって大切な事だと思いますね。また、80歳を超える様な方がお元気にテニスをされているのを見かけますが、自分も80歳を超えてもテニスができる様な健康体でいる事も目標です。
     
     私にとって、人生は「やりたい事探し」だと思っています。いくつになっても、新しい事はやってみたい。やってみたい事をやる事が、「生きている」事や「充実感」を実感できる事なんじゃないでしょうか。

One Viewpoint
 理系出身の藤井さんらしく、「それは定量的には・・・」という発想や、「まずは知識を体系的に習得する」という様に物事を理路整然と考えられながらも、それは面白いのか、やりたいのかという熱い情熱に突き動かされて決断する、といった冷静さと情熱のバランスの素晴らしさを感じました。それは、ご自身のみならず、社員の方々にも自ら考え成長していって欲しい」という期待にも同じく現れています。社会情勢や企業業績等、どんな事も「ピンチはチャンス!」と言い切れる潔さとスピード感はテニスで鍛えた安定した心身からもたらされている様に感じました。 

2024/2/1